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最高裁判所第一小法廷 昭和32年(オ)968号 判決 1958年2月06日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告人ら代理人森有度の上告理由第一点について。

原審は「……都道府県の選挙管理委員会が病院の指定をなすにあたり全然制限が存しないというわけではない。若しその指定が行政目的に著しく背反する場合は法令により与えられた裁量権の濫用に外ならないから、斬様な指定は違法無効であるといわなければならない。」と判示し、熊本県選挙管理委員会が本件指定をなすについての諸般の事実関係を認定した上で、右指定には裁量権の濫用はなかつたと判断しているのであつて、所論のように、本件指定が県選挙管理委員会の恣意的な自由裁量に委されたものであるとは何ら判示しているわけではない。それ故この点に関する所論は、原判示に副わない主張であつて採るを得ない。

また所論は、公職選挙法施行令五五条二項二号の病院は、その病院を一体として指定すべきであり、その一部を指定することは違法であるというのである。しかし、不在者投票制度は投票制度の特例であり、特定の選挙人に対し投票をなすべき機会と便益とをできるだけ与えようとするものであると同時に、かかる特別の措置が万一にも選挙の自由公正を害するようなことのないようなさるべきものであつて、公職選挙法施行令五五条二項二号は、不在者投票制度のかかる要請を考慮し、同制度を認めた法令の目的に適合するよう同号の指定をなすことを、都道府県選挙管理委員会に委したものと解するを相当とする。それ故、同号により、病院を指定するか否か、病院を指定する場合においても、その全部を指定するかその一部を指定するかは、右の趣旨において都道府県選挙管理委員会に委されたものであつて、病院の一部を指定することも、若しそれが不在者投票制度を認めた法令の目的に適合し、且つ選挙の自由公正を害することもない以上は、必ずしもこれを違法というべきではない。原審の認定した事実関係の下においては、熊本県選挙管理委員会が本件病院の一部を指定したことは、当該病院の性格、規模、環境等の諸事情から見て、公職選挙法四九条、同法施行令五五条二項二号に違反するものとは認められず、またこれがため選挙の自由公正を害する点があつたものとも認められない。この点に関する原審の説示は相当であり、所論は採るを得ない。

同第二点、第三点、第四点について。

論旨は、原判決が不在者投票管理者の独立した職能を無視した違法があるというが、病院長らが不在者投票管理者として選挙管理事務を執るのは、都道府県選挙管理委員会が公職選挙法施行令五五条二項二号の指定をなすことによつてはじめて生ずることであつて、都道府県選挙管理委員会がその権限に基き本件病院の一部を指定したからといつて(右病院の一部の指定が違法と認められないことは第一点に対して説示したとおりである。)、そのことは不在者投票管理者の職分を何ら侵すことにはならない。

次に、論旨は病院の一部を指定することが違法であり、また一部を指定してもその一部に制限した附款が無効であつて、病院全体が指定されたことになると主張するが、本件において病院の一部を指定したことが違法でないことは第一点に対し説示したとおりであつて、所論は理由がない。

同第五点について。

論旨は、病院指定は、病院長に対する訓令であるというが、本件病院指定は公職選挙法四九条の委任に基く同法施行令五五条二項二号により、不在者投票をなしうる場所を法律上確定するものであつて、単なる病院長に対する訓令であるとの所論は独自の見解で採るを得ない。

同第六点について。

論旨は本件不在者投票の違法があつても選挙無効の原因とならない旨主張するが、本件不在者投票に関する一連の手続は、公職選挙法施行令五五条二項二号により、適法になされた熊本県選挙管理委員会の指定を無視してなされたもので、選挙の管理執行に関する規定に違反するものであり、且つ、原審の確定した本件選挙における得票数及び違法に不在者投票をした者の数によれば、右違法は選挙の結果に異動を及ぼす虞があると認められるから、本件選挙は無効といわなければならない。所論は理由がない。引用の判決は当裁判所の判例に反するものであつて採用することができない(昭和二九年九月一七日第二小法廷判決、民集八巻九号一六四四頁参照)。

その余の論旨は、本件病院の一部の指定が違法であることを前提とするものである。しかし右指定が違法でないことは第一点に対し説示したとおりであり、所論は前提を欠き採るを得ない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 入江俊郎 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 下飯坂潤夫)

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